父は殿様 ンミンスの巻

百紫苑(hakushon)

2006年10月24日 19:40

 父が「ンミンス(梅味噌)を食べたい」と言い出したのは、もう2〜3ヶ月前だ。そう言われると、私も約30年振りに食べたくなって、平和通りや公設市場を探し回ったが、どこにもない。ならば作ってみようかと、書店に赴き沖縄料理の本をパラパラめくってみたが、ンミンスの作り方が載っている本は少なく、載っていてもそれは子供の頃に食べたンミンスとは違うような気がする。私の知っているンミンスは母が那覇のどこかで買ってきたのもので、ほのかにピーナツの味がした。

 もうンミンスのことなどすっかり忘れていた昨日、父から電話があり「○○さんにンミンスを作ってもらったから、一緒に取りに行ってくれないか」と頼まれた。な、何っ!?○○さんは沖縄料理の大家じゃないか。つながりはよくわからないが、母方の親戚であるその方とは、年賀状交換くらいの付き合いしかないと思うのに、ンミンス作りをわざわざ頼むなんて………よっぽど食べたかったのだろう。しかし昨日の夕方、父と一緒にンミンスを預かっているはず人を訪ねたら、預かっていないと言う。とりあえず手土産を託して出直すことにしたのだが、帰りの車中で父は「あの人は僕より年上だから、きっと忘れたんだろう」と笑っていた。数えで82歳の父より年上の、しかも世間では「先生」と呼ばれている人に自らの欲望を満たすためだけにンミンス作りを頼むなんて、さすが殿様!

 帰宅後、大家からわざわざ「ンミンスを預けるのを忘れました」とお詫びの電話をいただいた。「忘れないうちに今日と同じ人に預けておきますから、明日またいらして下さい」とおっしゃったそうだ。あぁ、畏れ多いことだ。

 そんなこんなで今日、改めて私1人でンミンスを受け取りに伺った。父がきれいな包装紙をはずし、タッパーの蓋を開けるのをそばで見ていたが、現れたンミンスは表面がツヤツヤしていて、子供の頃に食べたものとはかなり印象が違う。どれどれと早速、父のご相伴に預かった。しっとりしている上に柚子が入っていて、見た目以上に高級な味がする。おいしい!おいしいけれど、あのザラザラしていてほのかにピーナッツの味がするンミンスをもう1度食べたい。口には出さないが、父も同意見だと思う。

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