牛汁
義父が石垣島出身なので、妻の実家では正月に中味汁でもイナムドゥチでもなく、牛汁が出てくる。
私は牛汁の臭いが大の苦手だ。しかし、目の前に出されたものは食べる主義なので、添えられた生姜をたっぷり投入してあの臭みを消したいところだが、妻の実家では牛汁に生姜を入れない。生姜なしの牛汁を食べなきゃいけないなんて、ちょっとした拷問だ。
去年の正月は14:00頃に妻の実家へ行った。すると神のご加護か、牛汁は既に食べ尽くされていた。それを知った私はカチャーシーを踊りたい気分だったが、義父の手前そうもいかず、心にもなく少しだけ残念そうな顔をしてみせた。
今年も昨日の14:00過ぎに妻の実家へ新年の挨拶に行った。玄関先で義父が「今年は牛汁がたくさんあるからね」とニッコリ微笑んだ。ふむ、今年は神様に見放されたようだ。人生楽ありゃ苦もあるさと、小振りの丼いっぱいの牛汁を例年通り生姜なしのストレートで平らげた。今年もプチ拷問から免れることができるだろうと油断していただけに、例年以上につらかった。
義母が「ほら、去年は早々と売り切れたでしょ?だから今年は牛汁を沢山作ったのよ」と言って、何度もおかわりを勧めた。それを最初のうちは丁重に断っていたが、胃から牛汁の臭いが溢れ出してくるにつれ、段々と腹が立ってきた。もちろん、そんなことはおくびにも出さず、にこやかに対応したが、あの時もし義母に「牛汁は好きじゃないの?」と訊かれていたら「はい。特に生姜なしのストレート牛汁は大ッ嫌いです」と笑みをたたえたまま、すかさず答えていただろう。
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